私が副会長を務める読連協の会長から、青山美智子の「お探し物は図書室まで」を面白いからと勧められて3章まで読んだ。最初に定年退職した正雄の5章から読んだから4章分読んだことになる。純文学愛好者の私には魂を揺さぶられるような事件を含んでいないのが物足りないが、それでも読んで得るものがあった。等身大の真摯に生きる登場人物に感情移入ができる小説だ。この人は「つながり」を自然に作り出すのが上手く、創作の主軸になっている。先に「赤と青とエスキース」を読んだが二作とも、各章の主人公はそれぞれ個別に登場し、別の章では主人公から一人の登場人物に代わる。「お探し物は図書室まで」はコミハ(コミュニケーション・ハウス)の図書室が各章共通の場所になっているし、「赤と青とエスキース」は、エスキースと題する水彩画が各章をつなぐモチーフになっている。この仕掛けは創作物の小説が読者の現実の日常性と重なるような効果を与えていると思う。つまり一人を取り巻く生活圏は一人の主観を通してしか知り得ないが、その生活圏に現れる人々にはその人なりの知り得る主観性がそれぞれある。現実にはそれぞれの主観性が触れ合ったり、交差したり、視界に入らず通り過ぎるだけだったりする。小説では幸運にも出会いが起こる。当人には分からずに作者によって関連づけられるだけの場合もある。そこが実人生模様に近く感じられる。この小説と現実の日常性の近さがこの人の作品の魅力だと思う。
